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経営者保証ガイドラインを利用する4つの大きなメリット

弁護士 芳林 貴裕

弁護士 芳林 貴裕

奈良弁護士会

この記事の執筆者:弁護士 芳林 貴裕

奈良県出身。東大寺学園高校卒。京都大学法学部、同法科大学院を修了し、栃木県内の法律事務所にて企業法務案件等に携わった後、地元・奈良に戻る。事業承継や事業再生、廃業支援などの実務に幅広く従事している。

 経営者保証ガイドライン(以下「GL」といいます。)は、中小企業の経営者が、会社名義で金融機関から運転資金等を借り入れたときに、当該借入れにつき連帯保証人となっていた場合に、その保証債務を整理するための手続などを定めたものです。会社が経営危機に陥った際に、経営者個人の保証債務について整理を支援するこの制度には、破産と比べて多くのメリットがあります。今回は特に重要な4つのメリットについて、解説します。

破産を回避できる

 GLの最大のメリットは、自己破産することなく保証債務を整理できる点です。会社が倒産すると経営者個人も破産せざるを得ないと考える方は多いですが、必ずしもそうではありません。

GLを利用することで、破産という厳しい手続きを経ることなく、保証債務を整理することが可能になります。これにより、破産手続に伴う様々な制約(社会的信用の低下など)から解放され、より円滑にやり直すことができます。

破産よりも多くの資産を残せる可能性がある

 通常の破産手続では、破産法第34条に定められた「自由財産」と呼ばれる最低限の財産しか手元に残すことができません。しかし、GLを利用すれば、破産手続で手元に残すことができる自由財産以上の資産を保持できる可能性があります。

破産よりも自宅を残しやすい

 経営者にとって切実な問題の一つが「住まい」です。通常の破産手続では自宅を手放さなければならないケースが多いのですが、GLでは「華美ではない自宅」を残すことができる可能性があります。

これは経営者とその家族の生活基盤を守るという観点から非常に重要なポイントです。ただし、「華美ではない」という条件が付されていることから、過度に高額・豪華な住宅については対象とならない可能性が高いことに注意が必要です。

自宅を残せるかどうかの判断には、経営者の支払能力や従前の返済状況、会社が金融機関からの借入金を返済できなくなった経緯等に対する経営者の帰責性、経営者の経営資質や信頼性などが総合的に勘案されます。

信用情報機関に登録されない

 破産手続を行うと、信用情報機関に破産情報が登録され、その後長期間にわたりローンやクレジットカードの利用に制限がかかる可能性があります。これは再スタートを切る上で大きな障壁となります。

一方、GLを利用した場合は、信用情報機関に登録されないというメリットがあります。これにより、債務整理後の新生活や新規事業展開においても、金融サービスの利用に関する制約が少なくなります。

将来的な資金調達の可能性を残しておくことは、経営者が再び事業に挑戦する際に非常に重要な要素となります。信用情報に傷がつかないことで、経済的な再生までの道のりがより円滑になるでしょう。

まとめ:GLの活用

 GLは、会社の倒産によって経営者個人も経済的に破綻するという悪循環を断ち切るための重要な制度です。破産を回避でき、より多くの資産を残せる可能性があり、特に自宅を保持できる可能性が高く、さらに信用情報機関に登録されないという4つの大きなメリットがあります。

会社経営が苦しい状況に陥ったとしても、破産は唯一の選択肢ではありません。GLの活用を検討することで、より円滑な債務整理と経済的再生の道が開ける可能性があります。ただし、GLの適用には一定の要件を満たす必要があるため、早い段階で専門家に相談することをお勧めします。