
弁護士 芳林 貴裕
奈良弁護士会
この記事の執筆者:弁護士 芳林 貴裕
奈良県出身。東大寺学園高校卒。京都大学法学部、同法科大学院を修了し、栃木県内の法律事務所にて企業法務案件等に携わった後、地元・奈良に戻る。事業承継や事業再生、廃業支援などの実務に幅広く従事している。
奈良の中小企業の経営者の皆様、事業承継は会社の未来を左右する重要な経営判断です。これまで築き上げてきた事業を誰に引き継ぐのか、それは多くの経営者にとって大きな悩みの種ではないでしょうか。特に、親族内承継と第三者承継のどちらを選択するかは、会社の将来だけでなく、経営者自身の人生設計にも大きく関わってきます。
弁護士の立場から、それぞれの選択肢のメリット・デメリット、そして検討すべき注意点について、詳しく解説していきます。
事業承継の2つの主要な選択肢
中小企業の事業承継は、大きく分けて以下の二つの方法があります。
- 親族内承継:経営者の子や孫、兄弟姉妹などの親族に事業を引き継ぐ方法。
- 第三者承継:親族以外の従業員や外部の企業(第三者)に事業を引き継ぐ方法。
それぞれの方法には、メリットとデメリットがあり、どちらが貴社にとって最適かは、会社の状況、経営者の意向、後継者の有無など、様々な要素を総合的に考慮して判断する必要があります。
親族内承継のメリットとデメリット
親族内承継は、古くから日本の中小企業で最も一般的な事業承継の方法です。
メリット
- 社内外の理解を得やすい:従業員や取引先、金融機関など、社内外の関係者にとって、親族への承継は心理的な抵抗が少なく、比較的スムーズに受け入れられやすい傾向にあります。
- 会社の理念や文化の継続:親族が後継者となることで、創業者の理念や会社の文化、事業方針が維持されやすく、企業の独自性や強みを守りやすいという利点があります。
- 相続対策との兼ね合い:経営者の相続財産に自社株式が含まれる場合、親族内承継は相続対策と一体で検討できるケースが多く、一体的なスキームを構築しやすい側面があります。
デメリット
- 後継者能力の問題:親族の中に、必ずしも経営能力や意欲の高い人材がいるとは限りません。能力不足の後継者が事業を引き継ぐことは、会社の衰退に繋がりかねません。
- 他の親族との軋轢:複数の親族がいる場合、後継者選定や株式の分配を巡って、他の親族との間で遺産分割や経営権に関する紛争が生じるリスクがあります。これは会社の経営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
- 個人保証・担保の解除:親族に事業を承継しても、旧経営者の個人保証や担保がすぐに解除されないケースがあります。これらを引き継ぐ後継者の問題だけでなく、旧経営者自身の退職後の生活にも影響を与えかねません。
- 株式評価と税負担:自社株式の評価額が高額になる場合、後継者への贈与税や相続税が多額になる可能性があります。事業承継税制の活用も検討できますが、要件が複雑であり、計画的な準備が必要です。
第三者承継のメリットとデメリット
近年、親族内に適切な後継者がいない中小企業において、M&Aによる第三者承継が注目されています。
メリット
- 後継者問題の解決:親族内に後継者がいない場合でも、会社を存続させるための有効な手段となります。
- 創業者利潤の獲得:会社を売却することで、経営者は多額の売却益を得て、引退後の生活資金や新たな事業への投資資金とすることができます。
- 事業の成長・発展:買い手企業が持つ経営資源(資金、人材、技術、販売ネットワークなど)を活用することで、自社単独では難しかった事業の拡大や新規事業への参入が可能になるなど、事業のさらなる成長・発展が期待できます。
- 従業員の雇用の維持:従業員の雇用が維持されることが多く、経営者として従業員の生活を守る責任を果たすことができます。
- 個人保証・担保からの解放:M&Aによって会社の経営権が移転すれば、旧経営者の個人保証や担保が解除される可能性が高く、引退後のリスクを軽減できます。
デメリット
- 希望条件とのミスマッチ:買い手企業との間で、売却価格、従業員の処遇、事業統合の方法など、希望する条件と合致しない場合があります。
- 統合の難しさ:買収後の企業文化や経営方針の違いから、PMI(Post Merger Integration:買収後の統合プロセス)がうまくいかず、期待したシナジー効果が得られないことがあります。
- 時間と労力:M&Aのプロセスは、買い手探しから交渉、デューデリジェンス、契約締結まで、非常に時間と労力がかかります。通常、数ヶ月から1年以上を要することもあります。
- 法的な複雑性:株式譲渡契約書や事業譲渡契約書など、専門的な知識を要する複雑な契約書の作成や交渉が必要となります。
弁護士に相談すべき理由
親族内承継と第三者承継のどちらを選択するにしても、弁護士への相談は不可欠です。
- 親族内承継の場合:遺産分割問題の予防策としての遺言書作成支援、複数の親族間の利害調整、株式評価に関する助言、事業承継税制適用のための法務面からのサポートなど、円滑な承継に向けた法的アドバイスを提供します。
- 第三者承継の場合:売却スキームの検討、秘密保持契約書の作成・レビュー、基本合意書や最終契約書の交渉・作成、法的デューデリジェンスの実施、個人保証の解除交渉など、複雑なM&Aプロセス全体を法的な側面から強力にサポートします。
奈良の中小企業が直面する事業承継は、一社一社の状況に応じて最適な方法が異なります。早期に弁護士にご相談いただくことで、貴社の実情に合わせた最適な事業承継プランを策定し、将来的なトラブルを回避しながら、安心して事業を次世代へと引き継ぐことができるようになります。
最後に
事業承継は、経営者にとって人生最大の決断の一つです。親族内承継と第三者承継、それぞれにメリットとデメリットがあり、どちらが「正解」ということはありません。重要なのは、貴社と経営者、そして従業員の皆様にとって、最も幸せな未来を描ける選択肢を見つけることです。
奈良の地域経済を支える中小企業の皆様が、安心して事業承継を進められるよう、弁護士として全力でサポートさせていただきます。
事業承継について、具体的なご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。