経営者保証ガイドラインを利用する4つの大きなメリット
経営者保証ガイドライン(以下「GL」といいます。)は、中小企業の経営者が、会社名義で金融機関から運転資金等を借り入…[続きを読む]
弁護士 芳林 貴裕
奈良弁護士会
この記事の執筆者:弁護士 芳林 貴裕
奈良県出身。東大寺学園高校卒。京都大学法学部、同法科大学院を修了し、栃木県内の法律事務所にて企業法務案件等に携わった後、地元・奈良に戻る。事業承継や事業再生、廃業支援などの実務に幅広く従事している。
会社の経営者として、長らく事業の継続に尽力されてきた皆様にとって、「破産」という言葉は、まさに悪夢のように響くかもしれません。しかし、弁護士として数多くの企業の破産手続に携わってきた経験から申し上げると、破産は必ずしも事業の「終わり」を意味するものではなく、時には経営者ご自身の「新たなスタート」を切り開くための重要な選択肢となり得ます。近時、奈良県内においても会社の破産件数は増加していますので、決して他人事ではありません。会社の現況にかかわらず、会社の破産によるメリットとデメリットは把握しておく必要があります。
目次
多くの経営者の方が「破産=全てを失うこと」と考えていらっしゃるかもしれません。しかし、破産手続には、経営者の皆様を精神的・経済的な重圧から解放し、次なるステップへと踏み出すための重要なメリットが秘められています。
会社の経営不振が深刻化するにつれて、経営者の皆様は、日々想像を絶するような精神的プレッシャーに晒されます。資金繰りの自転車操業、従業員の生活への責任、取引先からの催促、金融機関からの厳しい追及…。こうした重圧は、経営者の心身を蝕み、時には健康を害するほどです。
破産手続を決断し、弁護士に依頼することで、まず第一に、これらの重圧から解放されます。弁護士が債権者との窓口となり、法的な手続きを進めることで、経営者ご自身は精神的な負担を大きく軽減し、これまでの疲弊から回復するための時間を得ることができます。この精神的な解放こそが、次なる人生を歩む上で最も重要な土台となるのです。
日本の中小企業において、経営者が会社の借入に対して個人保証をしているケースが一般的です。会社が破産すると、会社の債務は清算されますが、問題となるのは経営者個人の保証債務です。
経営者個人についても自己破産を同時に申し立てることで、経営者個人の保証債務が原則として免責され、法的に支払義務がなくなります。これにより、個人の資産が一定範囲内で守られ、破産後の生活再建が可能となります。もちろん、全てのケースで免責が認められるわけではありませんが、弁護士と綿密に打ち合わせることで、免責の可能性を高めることができます。
なお、会社の経営状況が破産の選択肢を取らざるを得ない程に悪化する前であれば、経営者個人については、破産を回避し、経営者保証ガイドラインに基づき保証債務を整理することができる可能性があります。その場合、経営者個人は破産する場合と比べてより多額の財産を残すことができる可能性があります。この点について、詳しくは、以下のコラムをご参照ください。
破産は、これまでの事業を一度清算することですが、これまでの経営経験やノウハウが無に帰すわけではありません。破産手続を通じて過去の負債から解放されることで、経営者の皆様は、しがらみに囚われることなく、新たな事業への再チャレンジに集中できる環境が整います。
経営者としての経験は、失敗も成功もすべてが貴重な財産です。その経験を活かし、同じ轍を踏まないよう慎重に計画を立てれば、再び社会に貢献する事業を立ち上げることも十分に可能です。
なお、会社の経営状況が破産の選択肢を取らざるを得ない程に悪化する前であれば、会社の事業を第三者に譲渡する方法など破産以外の手段を取りうる可能性があります。
一方で、会社の破産は、経営者の皆様にとって避けられない厳しいデメリットも伴います。これらのデメリットを正しく理解し、覚悟を持って手続きに臨むことが重要です。
会社が破産手続に入ると、その法人格は消滅します。これまで大切に育ててきた会社名、ブランドイメージ、顧客との信頼関係、従業員と共に築き上げてきた企業文化、そして形ある資産の全てが失われます。これは、経営者にとって筆舌に尽くしがたい痛みであり、最も大きなデメリットと言えるでしょう。
会社の資産は、通常、破産管財人によって換価され、債権者への配当に充てられます。経営者が所有する会社の株式も価値を失います。さらに、先述の通り、経営者が個人保証をしている場合、経営者保証ガイドライン等の手段を取ることができなければ、経営者自身の自己破産も同時に申し立てることが一般的です。その場合、経営者個人の財産(持ち家、預貯金、自動車など)も、一定範囲内の財産を除き、債権者への弁済に充てられることになります。この資産の喪失は、破産後の生活再建において大きな影響を及ぼします。
なお、経営者保証ガイドラインを利用した場合にどの程度個人資産を残すことができる可能性があるのか、については以下のコラムをご参照ください。
会社が破産したという事実は、経営者個人の信用情報にも影響を及ぼします。いわゆる「ブラックリスト」に載る状態となり、クレジットカードの作成や新たな借り入れが一定期間困難になります。また、新規事業を始める際にも、過去の破産歴が障壁となることがあります。金融機関や取引先からの信用を再構築するには、相当の時間と努力が必要となるでしょう。
なお、経営者保証ガイドラインに基づき保証債務を整理した場合には信用情報機関には登録されません。この点について、詳しくは以下のコラムをご参照ください。
会社の破産は、そこで働く従業員の生活に直接的な影響を与えます。原則として、全ての従業員を解雇せざるを得ません。長年苦楽を共にしてきた従業員の雇用を守れなかったことへの自責の念は、多くの経営者を苦しめます。また、取引先にも多大な迷惑をかけることになります。未回収の売掛金や契約不履行などにより、取引先の経営にも悪影響を及ぼし、時には連鎖倒産を引き起こす可能性さえあります。
なお、会社の経営状況が破産の選択肢を取らざるを得ない程に悪化する前であれば、会社の事業を第三者に引き継ぐなど破産以外の手段を取り、従業員の雇用を守ることができる場合があります。
会社の破産は、確かに多くのデメリットを伴う厳しい決断です。しかし、経営が行き詰まり、これ以上事業を継続することが困難になった場合、早期に破産手続を選択することが、かえって傷口を広げず、経営者ご自身とご家族の生活を守るための最善策となることがあります。
弁護士は、破産手続を通じて、経営者の皆様が直面する困難に寄り添い、法的な知識と経験を活かして、その負担を最小限に抑えるためのサポートを提供します。
もし現在、経営の継続についてお悩みでしたら、一人で抱え込まず、どうかお早めに弁護士にご相談ください。今後の方向性を共に検討し、最善の解決策を見つけるお手伝いをさせていただきます。