
弁護士 芳林 貴裕
奈良弁護士会
この記事の執筆者:弁護士 芳林 貴裕
奈良県出身。東大寺学園高校卒。京都大学法学部、同法科大学院を修了し、栃木県内の法律事務所にて企業法務案件等に携わった後、地元・奈良に戻る。事業承継や事業再生、廃業支援などの実務に幅広く従事している。
経営難に直面する中小企業の経営者にとって、個人保証の整理は、再起に向けた大きな第一歩となり得ます。今回は、「経営者保証に関するガイドライン」(以下「GL」といいます。)に基づいて保証債務を整理するための要件について、解説いたします。
目次
GLとは
GLは、中小企業の経営者が金融機関等に提供した個人保証について、事業の行き詰まりなどにより返済が困難となった場合に、一定の要件を満たすことで保証債務の全部または一部を整理し、経営者の早期の再出発を可能とすることを目的とした、金融機関・保証人・中小企業間の自主的な準則です。
保証債務を整理するための要件
GLを活用して保証債務の整理を申し出るためには、以下の4つの要件(①~④)すべてを満たす必要があります。
①保証契約がGLに適合していること
まず、GL第3項の定める以下の条件を満たしている必要があります。
主たる債務者が中小企業であること
ここでいう「中小企業」とは、中小企業基本法の定義に限られず、より広範な個人事業主や中堅企業も含まれます(GL7(1)イ、GL3(1)、GLQA3)。
保証人が個人であり、かつその中小企業の経営者であること
「経営者」には代表者だけでなく、実質的な経営権を有する者、営業許可名義人、共同事業従事者である配偶者、事業承継予定者なども含まれます(GL7(1)イ、GL3(2)、GLQA4)。
会社(主たる債務者)及び経営者(保証人)の双方が誠実であり、金融機関(対象債権者)に対して財産状況等を適時・適切に開示していること
GLは、会社(主たる債務者)、経営者(保証人)、金融機関(債権者)が継続的かつ良好な信頼関係にあることを前提にするものであることから、本要件を充足することが求められています(GL7(1)イ、GL3(3))。
本要件は、債務整理着手後や一時停止後の行為に限定されるものではありません。
債務整理着手後や一時停止後における適時適切な開示等の要件は、厳格に適用されるべきものと考えられますが、他方、債務整理着手前や一時停止前において、会社(主たる債務者)又は経営者(保証人)による債務不履行や財産状況等の不正確な開示があったことなどをもって直ちにGLの適用が否定されるものではなく、債務不履行や財産の状況等の不正確な開示の金額及びその態様、私的流用の有無等を踏まえた動機の悪質性といった点を総合的に勘案して判断すべきと考えられています(GLQA3-3)。
②会社(主たる債務)の整理手続が行われ、又は終結していること
会社(主たる債務者)が、以下のいずれかの法的または準則型の私的整理手続の申立てをGLの利用と同時に現に行い、又は、これらの手続が継続し、若しくは既に終結していることが求められます(GL7(1)ロ)。
- 法的整理手続(破産、民事再生、会社更生、特別清算)
- 私的整理手続及びこれに準ずる手続(中小企業活性化協議会の支援スキーム、事業再生ADR、特定調停等)
③金融機関(対象債権者)にとっても経済的合理性があること
GLによる保証債務の整理は、金融機関(対象債権者)側にとっても経済的合理性が認められる必要があります(GL7(1)ハ)。
経済的合理性については、次のような考えに基づき判断されます(GLQA7-4)。
会社(主たる債務者)が再生型手続の場合、以下の①の額が②の額を上回る場合には、GLに基づく債務整理により、破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるものと考えられます。
- 主たる債務及び保証債務の弁済計画(案)に基づく回収見込額(保証債務の回収見込額にあっては、合理的に見積もりが可能な場合。以下同じ。)の合計金額
- 現時点において会社(主たる債務者)及び経営者(保証人)が破産手続を行った場合の回収見込額の合計金額
なお、会社(主たる債務者)が第二会社方式により再生を図る場合、以下の①の額が②の額を上回る場合には、GLに基づく債務整理により、破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるものと考えられます。
- 会社分割(事業譲渡を含む)後の承継会社からの回収見込額及び清算会社からの回収見込額並びに保証債務の弁済計画(案)に基づく回収見込額の合計金額
- 現時点において会社(主たる債務者)及び経営者(保証人)が破産手続を行った場合の回収見込額の合計金額
会社(主たる債務者)が清算型手続の場合、以下の①の額が②の額を上回る場合には、GLに基づく債務整理により、破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるものと考えられます。
- 現時点において清算した場合における主たる債務の回収見込額及び保証債務の弁済計画(案)に基づく回収見込額の合計金額
- 過去の営業成績等を参考としつつ、清算手続が遅延した場合の将来時点(将来見通しが合理的に推計できる期間として最大3年程度を想定)における主たる債務及び保証債務の回収見込額の合計金額
④保証人に免責不許可事由がないこと
経営者(保証人)に、破産法第252条第1項(第10号を除く)に規定される免責不許可事由が存在しないこと、またはそのおそれがないことが求められます(GL7(1)ニ)。
免責不許可事由には、財産の隠匿や浪費、不誠実な説明義務違反などが含まれます。経営者(保証人)の資産開示の正確性は、GLの適用における極めて重要な要素です。
最後に
GLに基づく保証債務の整理は、経営者の再出発を可能とする制度です。しかし、GLを利用するためには、上記要件(①~④)を充足したうえで、金融機関(対象債権者)との間で緻密な調整や正確な情報開示が不可欠ですので、弁護士等専門家によるサポートが必須です。
保証債務の整理をご検討の方は、できる限り早期にご相談いただくことをお勧めします。
【参考文献】
GL : 経営者保証ガイドライン
GLQA: 「経営者保証ガイドライン」Q&A