
弁護士 芳林 貴裕
奈良弁護士会
この記事の執筆者:弁護士 芳林 貴裕
奈良県出身。東大寺学園高校卒。京都大学法学部、同法科大学院を修了し、栃木県内の法律事務所にて企業法務案件等に携わった後、地元・奈良に戻る。事業承継や事業再生、廃業支援などの実務に幅広く従事している。
中小企業の経営者にとって、金融機関からの資金調達は事業運営上欠かせないものですが、その際に求められる「経営者保証」は、大きな精神的・経済的負担となることがあります。長年にわたり慣行として根付いてきたこの制度には、一定の機能を果たしてきた側面がある一方で、経営の自由度や再挑戦の機会を奪うなどの弊害も指摘されています。近年、こうした課題に対応するべく「経営者保証に関するガイドライン」が策定され、実務の中で活用が進んでいます。本稿では、経営者保証をめぐる課題とその解決に向けた取り組みについて解説します。
経営者保証の課題
中小企業の経営者は、自社が金融機関から運転資金などを借り入れる際、当該借入に関し金融機関に対して連帯保証人(以下「経営者保証」といいます。)となることが一般的です。
大企業においては、所有と経営が明確に分離されており、財務基盤も強固であることに加え、会計監査や情報開示の義務があるなど、ガバナンス体制が整備され経営の透明性も確保されています。そのため、経営者保証が求められることは通常ありません。
一方、中小企業では、大企業と比べると、業務・経理・資産の所有に関して経営者と会社の関係が明確に分離されておらず、財務基盤も脆弱で、経営の透明性が十分とは言えない状況です。
このような背景から、中小企業では長らく経営者保証が提供され、これにより、①経営者に対する規律が働き、②会社の信用補完を通じて金融機関からの資金調達も円滑に行われてきました。
しかし、経営者保証には、経営者が思い切った事業展開に踏み出しにくくなるほか、経営が窮地に陥った際の早期再生を妨げるなど、企業の活力を阻害する側面も指摘されています。
これらの課題は、経営者保証の契約締結時や履行時など様々な場面で顕在化しており、具体的には以下の点が問題視されています。
- 個人保証への過度な依存が、借り手・貸し手双方による情報開示や事業評価など、本来期待される機能の発揮意欲を妨げている。
- 個人保証が融資慣行として定着していることにより、貸し手側の説明不足や過大な保証債務の要求が生じ、結果として両者の信頼関係構築を阻害している。
- 経営者交代時の対応、保証履行基準の不明確さ、保証債務の残存といった履行時の課題が、中小企業の創業や成長、早期再生・事業清算、円滑な事業承継や新たな挑戦の妨げとなっている。
課題解決に向けた取り組み(GLの策定・公表)
こうした状況を踏まえ、平成25年1月に中小企業庁と金融庁が共同で「中小企業における個人保証等の在り方研究会」を設置し、課題解決に向けた具体策としてガイドラインを策定することが適当であると取りまとめました。
この研究会では、経営者保証に関する課題を契約時・履行時の両面から整理し、中小企業金融の実務円滑化を図る具体的な政策的方向性について継続的に議論が行われました。
その成果として、平成25年5月には「中小企業における個人保証等の在り方研究会報告書」が公表され、課題解決の方向性とともに、これを具体化するためのガイドライン策定が提言されました。
さらに、同年6月14日に閣議決定された「日本再興戦略」においても、開業・廃業率10%台を目指す施策の一環として、当該ガイドラインの策定が盛り込まれました。
このような背景のもと、平成25年8月には、日本商工会議所と全国銀行協会が行政当局の関与のもと、「経営者保証に関するガイドライン研究会」を設置し、有識者を交えて意見交換を行いました。
その結果、契約時および履行時における中小企業・経営者・金融機関の適切な対応を示す、自主的・自律的な準則として「経営者保証に関するガイドライン」(以下「GL」といいます。)が策定・公表されました。
GLの意義
このように、GLは、中小企業団体や金融機関団体などの関係者が中立公平な学識経験者、専門家等と共に協議を重ねて策定したものですので、法的拘束力はありません。
しかし、GLは、準則として、会社(主たる債務者)、経営者(保証人)及び金融機関(対象債権者)によって、自発的に尊重され遵守されながら、経営者保証に関する下記の課題に対する適切な対応が取られ、その弊害を解消し、もって会社(主たる債務者)、経営者(保証人)及び金融機関(対象債権者)の継続的かつ良好な信頼関係を構築・強化するとともに、中小企業の各ライフステージ(創業、成長・発展、早期の事業再生や事業清算への着手、円滑な事業承継、新たな事業の開始等をいいます。)における中小企業の取組意欲の増進を図り、ひいては中小企業金融の実務の円滑化を通じて中小企業の活力が一層引き出され、日本経済の活性化に資するうえで、重要な意義を有します。
- 個人保証への過度な依存が、借り手・貸し手双方による情報開示や事業評価など、本来期待される機能の発揮意欲を妨げている。
- 個人保証が融資慣行として定着していることにより、貸し手側の説明不足や過大な保証債務の要求が生じ、結果として両者の信頼関係構築を阻害している。
- 経営者交代時の対応、保証履行基準の不明確さ、保証債務の残存といった履行時の課題が、中小企業の創業や成長、早期再生・事業清算、円滑な事業承継や新たな挑戦の妨げとなっている。
まとめ
経営者保証は、中小企業にとって資金調達の現実的な手段である一方で、経営者に過度なリスクを背負わせるという課題も抱えています。GLは、こうした課題に対する現実的な対応策として、保証の適正化や信頼関係の再構築、そして中小企業の前向きな挑戦を後押しするものです。自社の状況に応じて、GLをどのように活用できるかを把握しておくことは、経営リスクへの備えとなるでしょう。経営者保証や資金調達に関してご不安やご不明点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。